レトルト工房 ~錬金術師の仕事場~

個人サークル「レトルト工房」のブログです。現代科学の最後尾を独走中です。

一日一星 No.0056「クーデター」『だれかさんの悪夢』

元首は飾りのようなもので、いくらでも取り替えがきくという話。これは禅譲なのか放伐なのか?クーデターなので放伐のようだが、元首本人が辞めたがっているので禅譲のようでもある。
元首がお飾りで良いのは時代に関わらずなのだろうか?平穏な時代なら官僚制のようなシステムがしっかりしていれば問題ないし、むしろシステムをあれこれいじろうとする人物が元首になると面倒なことになると思う。つまり安定志向の方が良い。しかし乱世の場合は信長のような突出した個性を持った元首が必要とされるのではないだろうか?

一日一星 No.0055「反政府省」『だれかさんの悪夢』

この話の国は専制国家だが、民主的な体裁を対外的に保つため、「やらせ反政府運動」をやっている。国民のガス抜きといった国内向けの対策としてやっているわけではないようだ。
民主主義国家でも、市民運動のプロの方々が活躍されているが、彼らは何の目的でどこからお金を貰って活動しているのだろうか。

一日一星 No.0054「期待」『宇宙のあいさつ』

この作品を読んで最初に『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を思い出した。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか』は1968年刊行、『宇宙のあいさつ』は1963年刊行。『宇宙のあいさつ』の方が少し早い。しかし両作品の間に特に直接的な関係は無さそうだ。
自動装置にとりかこまれたうるおいの無い生活。ナヤ氏が白鳥に期待したものは何なのか?
上流階級はロボット白鳥でも満足して購入しているようだが、ナヤ氏は本物でないと満足しないようだ。自動装置に無く本物の動物にあるもの、となると、世話が面倒だったり言うことを聞かなかったりという、ペットの意図せざる行動だろうか?自動装置に世話されているペット状態のナヤ氏は、自分が世話する側にまわりたかったのかも知れない。

一日一星 No.0053「羽衣」『宇宙のあいさつ』

冒頭と最後の一節は、謡曲「羽衣」からの引用で、さらに遡ると万葉集が元ネタらしい。こういう過去の文献に、未来人やら宇宙人を思わせる記述があるのは、ロマンと言うかセンス・オブ・ワンダーが感じられる。と同時にオカルト雑誌の記事にありがちな胡散臭さも感じられる。この話から、縄文時代の宇宙服っぽい遮光器土偶とか、ピラミッドパワーとか、ナスカの地上絵とか、大洗のうつろ舟伝説を思い出した。
一人称の、女性が主人公の作品。天女が主人公なので当然と言えば当然だが。星新一の作品の中では、一人称の女性主人公の作品はどれくらいの割合で存在するのか?
バーチャルな娯楽に飽き足らない主人公が、大金をかけてまでして求めていたのは何だったのか?
「あたしは時の扉を自分で押しあけ、過去そのものに触れてみたいの。」
「過去を肌で感じることができさえすれば、後悔はしないわ。」
と言うセリフから、リアルなものへの渇望が感じられる。最後の方で、彼女の住む未来世界が、地球環境の崩壊後に生き残った人達が再建した世界であることが明かされる。
彼女はこのわずかな時間で、求めていたものを得られたのだろうか。

一日一星 No.0052「初夢」『宇宙のあいさつ』

偶然なのか、葉書の絵にサブリミナル効果でもあるのか、奇妙な夢を見てしまう話。欲望を無理矢理喚起しようとするところは「不景気」を想起させられる。
経済が成熟すると、欲しいものはほぼ手に入ってしまい、経済が頭打ちになる(いわゆる「先進国病」)と言うが、「隴を得て蜀を望む」と言う言葉もある。人間の欲望に限界はあるのか、それとも限りはないのだろうか?

一日一星 No.0051「その夜」『宇宙のあいさつ』

何だか壮大な話。「最後の地球人」を思い出した。創世記の「光あれ」の光は核の光なのだろうか?
話の途中で「みながこのような考えを持てば、争うことをしなくてもすむでしょうに。」と思える本を兵士が見つけるが、果たしてそうだろうか?その本が争いの元だった可能性もある。その本に書かれている情報はミームで、寄生した生命体の文明を破壊しては、他の文明に転移を繰り返しているのかも知れない。

一日一星 No.0050「解決」『宇宙のあいさつ』

ノックの音から始まる星新一の作品は、『ノックの音が』という作品集でまとめられる程沢山ある。物語の本題に手っ取り早く入る方法として適当なのだろう。
星新一の一人称の作品というのは多いのか少ないのかよくわからないが、この作品は一人称。「N氏」のような三人称の作品と意識的に使い分けているのだろうか?
霊感商法の話だが、中々良心的。タイトルの通り問題をきっちり解決する。霊感商法ではあるが、依頼主に霊の話はせずに、問題を解決するだけで原因は言わないのもクールな仕事振り。
最初に出す解決方法が離婚というのもすごい。普通それは最後の手段なのではないかと思うのだが、即断即決感が強い。
主人公が依頼主の女性に強い魅力を感じたのは、彼女に憑いている霊が巴御前で、自身に憑いている霊が木曽義仲だからだろうか?それとも霊関係なく彼女が魅力的な女性だったからなのか?ともかく、色々面倒なことになることを覚悟すれば霊の相性から彼女をものにすることは可能であるのに、冷静に霊を交換して大金と世之助をゲットした自制心はなかなかのものだと思う。